空想地図の〝隣接領域〟には、マインクラフト(通称:マイクラ)や Cities: Skylines といった3Dゲームの世界で、現代日本風の街並みを再現するプレイヤーたちがいる。建物を一つひとつ積み上げながら街を構築していくため、制作の過程や、完成した街区・建築のディテールを紹介する動画も多い。たとえば「佐山県」プロジェクトは、マイクラ上で現代日本風の風景を再現する試みで、十数名のメンバーが10年以上にわたり制作を続けており、マイクラコミュニティの層の厚さが感じられる。
こんな例もある。2025年に話題となった「Wplace」は、実際の地図上に誰でも自由にピクセルアートを描けるサービスだ。なかでも、沖ノ鳥島付近に本来ありえないチェーン店や交通機関を書き込み、直径数メートルの島と太平洋だけだったその一帯が、多数のユーザーによる投稿によって「開発」され「メガロポリス」化した光景は、SNS上でも注目を集めた。決して褒められたものではない「悪ノリ」的な描き込みも少なくないが、実際の地図を舞台に、存在しない街を描き込むという行為は、太平洋をまっさらなキャンバスに見立て、道や店舗を描き足し虚構の都市を生み出す営みには、空想地図的な想像力の延長線が確かに見てとれる。
匿名掲示板で空想地図の愛好家たちが互いを「発見」してから、すでに25年あまりが経つ。とはいえ、本居宣長や、「地理系ブックカフェ空想地図」店主の田中利直氏のように、それ以前から一人ひとりの手によって、架空の土地を思い描くという営み自体は静かに行われてきた。地図というメディア、あるいは都市や地域といった枠組みには、人の想像力を誘い出す何かがあるのだろう。
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創作や物語における「地図」という存在についても、少し考えてみたい。
たとえば寺山修司による市街劇では、街のさまざまな場所で同時多発的に劇が上演され、観客はチケットの代わりに配られた地図を手に、その街を巡る。街の時間と営みを一枚の地図にまとめ上げ、観客にとっての〝物語の索引〟として機能させた点で、地図という媒体を生かした試みといえる。演劇と空想地図の親和性は高く、2010年代には地理人氏とパフォーマンスユニット「居間theater」によるコラボレーションもあった。さらに2021年には劇団イキウメの『金輪町コレクション』が上演され、架空の街「金輪町」を舞台にした複数の物語が展開。作品世界を示す地図も制作された。
この25年で広がりを見せてきた空想地図という趣味。その楽しみ方や広がり方、あるいは隣接する領域や媒体との関わり方には、まだまだ多くの可能性が残されているように思う。さまざまな分野の有識者やクリエイターを交えたプロジェクトが動き始めているのも、空想地図が次の段階へと進もうとしている兆しなのかもしれない。描き手の一人として、この先の展開が楽しみでならない。
※この記事は、ZINE「空想と地図」Vol. 6 の特集「空想地図の現在地」内に掲載されたコラムです。
https://store.chirijin.com/items/127403294


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